J.S.バッハ:組曲ホ短調BWV996(リュート組曲第1番)聞き比べ⑤

エドゥアルド・フェルナンデス:アルテ・ノヴァ盤2000年録音

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使用ギターはモダンの愛器ダニエル・フレドリッシュ,1986。CDジャケットにはなぜか19cギターのレプリカを持っているフェルナンデス氏が。知らない人はこのジャケットを見たら19cギターのディスクなのだと思うだろう。ひどい話だ。
CDにはフェルナンデスのサイン入り。2001年7月に津田ホールであった福田進一&フェルナンデスのコンサートの際に頂きました。この日は私にとっては思い出深い日で、終演後にある方がロビーで私を濱田滋郎先生に紹介してくださって、それがきっかけで9月より立教大学で濱田先生の講義を受けることとなったのでした。

プレリュード 2分43秒
冒頭のPassagioが素晴らしい。5小節目頭までほぼ一息に弾き切る奏者が多いが、さすがは学者肌なフェルナンデス。クラシックギターでここまで「語る」ことができるとは驚き。
この5小節目頭までの19秒間の演奏で、すでに彼の考えるBWV996の今後の展開が見えてくるよう。聴けば聴くほどこのPassagioの演奏は素晴らしい。
続くレチタティーボも素晴らしい。これだけはっきりと語りと伴奏を分けて表現している演奏は他にない。こういう演奏こそ聴きたかったのでうれしい。
12~14小節目までの前のめりに進む様も素晴らしい。
ラストに向けてのドラマティックな表現も見事で、音楽の構築の仕方に巨匠の風格を感じさせる。
プレストに入ってからも格調高い演奏。各声部がくっきりとしていて聴き取りやすい。低音を少しボケたような音で、高音を鋭い音で弾き分けたりしていて、また、新たな声部が入ってくるところもしっかりとそれが分かるように印象付けている。

アルマンド 3分52秒

クーラント 2分48秒
アルマンドでも前・後半繰り返しで装飾を入れていたが、クーラントではもう曲の始終ずっと入れている。それが曲の流れを阻害する一歩手前で踏みとどまっている感じ。以前このCDの紹介が現代ギター誌に載った際、「装飾が過剰に聞こえる」との評があったが、私はそうは思わない。当時の装飾についての大変な研究が窺える演奏で、フェルナンデスは流れを損なうギリギリまで装飾を入れて、むしろそれを楽しんでいるのではないか。
テンポの揺れが大きいのも特徴。これでは踊れないだろうと思われるかもしれない。だが、ライナー教授によると、「テンポの重要さはダンスをする側にあったのであって、演奏者はそんなに厳格に拘る必要はない」とのこと。だとすると、このフェルナンデスの演奏はおかしくはない。それにバッハの「舞曲」は器楽用のもので、踊るためのものではないですしね。

サラバンド 4分36秒
録音が優秀。フェルナンデスが意図する、いろんな音色の変化をはっきりと捉えている。フレドリッシュの音色を堪能できる。デッカから移籍して正解でしたね。

ブーレ 1分14秒
小気味の良いブーレ

ジグ 3分09秒
本当に素晴らしい演奏!各声部を完璧に弾き分け、流れを損なう箇所もまったくない。正確無比の技巧と、音楽を深く把握し、理解しているのが伝わってくる。
ただ15小節3拍目裏がファ♯なのは何故だろう。今まで聴いた6枚はすべてファ♮。楽譜はファ♯になっているのだが、前後の流れからファ♮が正しいと思うのだが…この件について当時の和声学的見地から説明できればいいのだけど。



ジュリアン・ブリーム:RCA盤65年録音

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使用ギターはロベール・ブーシェ1960(濱田三彦氏の解説による)

プレリュード 3分12秒
ブリーム32歳当時の録音。
冒頭Passagioの部分はスラーを多用しているのだが、それが流れを悪くしてしまっている。
レチタティーボの部分で、何故か11小節4拍目裏のドをド♯で弾いている。次の12小節目のド♯に合わせたのだろうが、やはり変な感じ。
プレストの開始とともに、ブリームのとてつもない音楽性を感じさせる。なんと堂々として格調高い開始の仕方か。
58~59小節目の内声ラにヴィブラートがかかっていて、「本当は不自然」なはずなのに、ブリームがやると思わずひれ伏してしまう(笑)
65、67、69、70、71小節に現れる特徴的なモティーフの弾き分け方も独特で素晴らしい。特に65小節目での音色はまるでカミナリが落ちたような非常にメタリックな音色。

アルマンド 2分03秒
かなり速いテンポ。驚くべきは13小節1拍目裏~16小節1拍目表までを1オクターブ上げて演奏している。
解釈は「アルマンド」ではないが、65年の演奏であるからそれを言っても仕方ないだろう。

クーラント 3分43秒
遅い。「クーラント」ではない。まさかキルヒホーフよりも遅い演奏があるとは(笑)
ただ、音色の使い分けが独特の閃きに満ちていて、彼の尋常ならざる音楽性を感じさせる。

サラバンド 4分40秒
17小節1拍目のファ♯がファ♮になっている。
ブーシェを使っているが、福田進一さんや大萩康司さんの演奏でイメージするようなブーシェの音ではない。「ブリームの音」としか言いようがない。

ブーレ 1分33秒
前半意外に大人しいなと思っていたら、繰り返しでめっちゃメタリックな音に(笑)ブリーム節炸裂!

ジグ 3分25秒
14小説目、音階が駆け上がる箇所で、楽譜にはシまで上がって、オクターブ下がってラシドレと続くのだが、なんとブリームはラシドレもそのまま上げて弾いている!素晴らしい!この試みは正当なものだと思う。バッハは楽器の都合(ラウテンヴェルクの音域か?)でオクターブ下げざるを得なかったのだろうが、ギターでこれを実現できるなら、むしろブリームの解釈のほうがバッハの意図に即していると言えるのではないか?
フェルナンデスと同様、15小節3拍目裏をファ♯で弾いている。ファ♯で弾いているのは10枚のCDのうちフェルナンデスとブリームのみ。
ラスト20小節6拍目のラを、②弦で取って甘いヴィブラートをかけて弾いているのが心憎い。現代では好まれない表現だが、ブリームなら何をやっても説得力があるから不思議(笑)

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